富士登山

2003年8月

日本一の山に登りたい

山腹から眺める夜明け前の空

日本人に生まれたからには、一度は富士山に登らなくては。知り合いにそう言われ、挑戦してみることにした。ただし、思い立っていきなり登るわけではない。東京近郊の山をトレッキングして、ある程度ならしてから、いよいよ今年チャレンジすることにした。
富士山は知名度があるからか、いきなり登る人が多いと聞いた。しかし、日本最高峰の立派な『登山』なのだから、仮にも『高尾山(※)の次は富士山に行こう!』という軽い気持ちで行くな、と先人からアドバイスを受けたので、1年間練習したわけである。
さらに、6年間も富士山に登り続けているという友人が案内してくれるというので心強い。コースは富士宮口からのルート。深夜に登り始めて、山頂に朝着き、昼過ぎには下山するスケジュールである。

東京を夕方車で出発し、22時頃に御殿場市内で食事を摂る。コンビニで最終の食料調達をして、5合目に向かったが、すでに駐車場は満車。その場でUターンすることになり、1.5kmほど下った4.5合目とも言うべき場所からの出発となった。
時刻は午前0時半過ぎ。東京では見ることのできない満天の星空が広がっていた。

(※)高尾山:東京近郊にあるハイキングで有名な山。天狗が住むという。

快調に登山する

富士山頂から望む雲海

5合目からは正規の登山道に入る。砂と岩の道で、あたりは真っ暗で何も見えない。自分のヘッドライトだけが頼りだが、ほかにも大勢の登山者がいて、決して1人きりになるということはない。ふと、見上げると頂上の方まで登山者のライトの列が続いている。
あっという間に6合目に到着してしまい、拍子抜けの感がした。が、油断は禁物と、再び気を引き締めて7合目に向かった。

次の6合目~新7合目間は非常に長い。5合目~6合目がわずかの距離に感じられたのに対して、ここはなかなか到着しない。おそらく富士宮ルートの中では最も合目間が長いのではないだろうか。
各自のペースで登ることにしたため、後続の友人との距離が少し開いてしまった。私は体重が非常に軽いためか、上り坂は予想していたほど大変ではなかっ た。そのため、どんどんと登ってしまったようだ。6合目からかなり歩いたので、休憩をして、念のため酸素も補給した。
山小屋の脇に立って麓の方を見ると、東側の空にオリオン座が輝いていた。

7合目の次は8合目かと思いきや、看板には『本7合目』とある。先ほども7合目、今度も7合目では少々がっくりくる。少し休憩して、本当の8合目を目指す。
8合目までくると、登山道の横で寝そべったり、座ったりして休憩する人の数が、相当多くなってくる。友人が登ってくるまで15分ほど休憩してから出発する。
冬用の登山服を着てきたのだが、休憩している間は寒く感じられるようになったので、登山用のウインドブレーカーをさらに羽織る。

東側の空がゆっくりと色づきはじめ、朝が近いことを知らせている。
9合目に到着。実はまた「本8合目」ではないかと勘ぐっていたのだが、素直に9合目であった。いよいよ頂上が目前に迫ったが、人が多く混雑しているようだったし、ここで友人が全員揃うまで待つことにした。
全員揃ってから、営業を開始した山小屋にいったん入りココアなどを飲む。時間は午前4時半近くで、御来光が間近なのだが、急に霧と雲がわき上がって視界が悪くなってしまった。日の出は諦めなければならないようだ。
日の出時刻を過ぎ、明るくなってから山頂を目指してラストスパートだ。

暗いときにはよくわからなかったが周囲は岩だらけ。その中をジグザグに登山道が続いている。
途中に9合5尺という山小屋がある。次は頂上だと思っていたのだが、最後の試練といったところか。
一歩一歩は小さく、ゆっくりだが、一気に登ろうとせず、一定の速度で休まず登り続けるというスタイルを貫いてきたのが幸いしたのか、体力的にはまだ余裕があった。ここでは休憩せずにそのまま一気に頂上へとアタックする。

富士山頂の一番高いところを望む

午前5時半頃。岩の階段を登りきると、突然山頂に到着した。
とにかく人が多い。トイレは長蛇の列。目の前にある神社の周囲にも人、人、人。富士山の人気がうかがえた。
山頂とは言っても実際の富士山の頂上ではない。ここから少し離れた剣が峰が3,776mの最高点になる。人をかき分けて剣が峰に進む。そこに最後の難関が待ち受けていた。
富士登山の中で本当に最後の最後である剣が峰への道。ここは極めて急な勾配になっている。登山道のような岩の階段ではなく、斜面がそのままになった坂道。降りてくる人の中には(その気がなくても)滑り落ちてくる人もいるくらいだ。
そして、ついに日本最高点に到達。眼下には雲海が続いており、その美しさと達成感で心にぐっとくるものがある。

午前7時過ぎに下山開始。行きと全く同じ登山道、全く同じコースをそのまま下っていく。今度は昼間なので景色が見えるが、どこまで行っても岩と砂だらけで風景に変化はない。
本7合目まで一気に下る。下りは登りと違って不得意で、膝にも負担がかかる。杖をつきながら岩を避けて6合目まで下ると、いつしか天候は小雨になっていた。
5合目から先がきつい。車を停めたのが1.5km下だから、私たちの登山も5合目が終着点ではないのだ。バスや車がひっきりなしに通るアスファルトの車道を、排ガスを吸いながら1.5km下った。

午後2時過ぎ、東京の自宅に帰着。徹夜で登ったので、急激に眠気がおそってくる。ばたんきゅう。
富士山の充実感はすばらしい。しかし、登山の楽しみという点では、風景や花などを楽しむ山ではないため、多少興ざめであった。最高峰へのチャレンジと自己との戦いという、ストイックな山なのである。