松代町・松之山町・高柳村

2004年9月

棚田の町、松代、松之山

日本の田舎には棚田がある

金沢始発の特急はくたか号は、定刻通りに十日町駅のホームに静かに滑り込む。私を含めたほんの数人の客を降ろすと、あっという間に走り去ってしまった。
新潟県南部地方は、日本有数の豪雪地帯であり、米所でもある。秋の収穫の時期、出張で金沢まで行った帰りの連休を活かして、金色に輝く田んぼを見に来たのだ。

ここ十日町も見所がたくさんあるそうなのだが、今回はもう少し田舎の方へ行ってみたいと思っていた。レンタカーを借りて、まずはお隣の松代町へと移動する。
長いトンネルを抜けると、そこもまた山の中。松代町は新潟県の山奥深いところにある棚田の町である。観光案内所に行くと「棚田マップ」なるものを頂ける。ここ松代と隣の松之山の棚田は、全国の写真愛好家にも有名で、よく雑誌に写真が掲載されていたりするからだ。実際には棚田マップを見なくても、右も左も棚田である。
田んぼはまさに稲刈りの真っ最中。刈り取られて稲の株が点々と残る田と、金色の頭を垂れている田が半々くらいであろうか。刈り取られた稲は、その場で束ねられて、木組みの物干し竿のようなものに掛けられる。稲架かけである。何を隠そうこれが見たかった(写真に撮りたかった)のだ。地元の人からすると、なぜこんなものをと思うかもしれないが、都会に住む私にとっては、貴重な日本の風景であり、格好の被写体でもあるのだ。よく見ると、刈り取られた稲にも、新鮮なものと何日か干されたのであろう、茶色に変色したものがあって趣深い。

山の上に建っている松代城

地図を見ると松代城なるものがある。上杉謙信が利用したとされる城らしいということで、寄ってみることに。似た名前として信濃松代城というのが長野県にあり、たぶんそちらの方が有名なのだが、こちらの松代城はいかがなものか。松代城は山の頂上にあり、車で行けるのだが、道は大変狭い。小型車でもぎりぎり1台通れるかどうかという道を延々と上ると、まさしく山の頂上にぽつんと天守閣だけのような形の城があった。展望施設があるようなのだが、この日は閉まっていた。しかし、城の脇からは松代町が一望できる素晴らしい眺めである。山間を走る道路と線路。そしてどの山の斜面にも棚田が広がっている。
もう少し先まで車を走らせて、お隣の松之山町にある松之山温泉に立ち寄った。松之山温泉は日本三大薬湯のひとつに数えられる名湯である。狭い山の間に温泉宿が何軒か軒を連ねている。日帰りで入れる施設もあり、番台にお金を支払って湯船に進むと、こんこんとお湯がわき出ていた。湯は熱い。みんな赤くなり、仏頂面をして湯につかる。脇を細々と流れている川の水がうらやましい。
湯から上がると陽が西に傾きつつあるので十日町の宿に戻った。夕食は地元のそばに舌鼓を打つ。

これぞ日本の原風景

原風景のまま景色が展開されている

夜雨が降り出したようで、まだ少々雨が残っている。
朝焼けは拝めそうにないので、諦めてゆっくりと宿を出た。今日はそのまま高柳村へと向かう。
高柳村にはかやぶき屋根の家がそのまま保存されている地区がある。小雨が残る中、到着してみると、早くもカメラを持った団体さんが先に来ていた。
しばらく撮影をしていると、少し晴れ間が出てきたので、再び棚田へ。田園風景というのは原風景なのだろうか、とても気分が落ち着くのだ。

昼前にはレンタカーを返して十日町に戻ってくる。越後湯沢までは各駅停車で出ることにした。
十日町には、JR飯山線と北越急行ほくほく線という2本の鉄道が走っている。このうち、ほくほく線はマニアに大人気の路線で、新幹線を以外の在来線では国内最高速度で列車が走行する路線なのだ。昨日、私が乗ってきた特急はくたか号が時速約160kmで走っている。各駅停車も速いらしいというので、帰りは各駅停車を選択したのだ。
確かに速かった。速いと言うよりは加速が良いという表現が正しいかもしれない。たった2両しか連結していないのだが、列車とは思えない速度で急激に加速して走っていく。全線のほとんどがトンネルになっており、トンネル中にも駅があったりする。ちっちゃなジェットコースターという感じだろうか。乗客もまあまあいて、おじさんから小さな子供まで、みんな風景の変化に大はしゃぎである。越後湯沢までは30分ほどだが、あっという間であった。