棚田の町、松代、松之山

金沢始発の特急はくたか号は、定刻通りに十日町駅のホームに静かに滑り込む。私を含めたほんの数人の客を降ろすと、あっという間に走り去ってしまった。
新潟県南部地方は、日本有数の豪雪地帯であり、米所でもある。秋の収穫の時期、出張で金沢まで行った帰りの連休を活かして、金色に輝く田んぼを見に来たのだ。
ここ十日町も見所がたくさんあるそうなのだが、今回はもう少し田舎の方へ行ってみたいと思っていた。レンタカーを借りて、まずはお隣の松代町へと移動する。
長いトンネルを抜けると、そこもまた山の中。松代町は新潟県の山奥深いところにある棚田の町である。観光案内所に行くと「棚田マップ」なるものを頂ける。ここ松代と隣の松之山の棚田は、全国の写真愛好家にも有名で、よく雑誌に写真が掲載されていたりするからだ。実際には棚田マップを見なくても、右も左も棚田である。
田んぼはまさに稲刈りの真っ最中。刈り取られて稲の株が点々と残る田と、金色の頭を垂れている田が半々くらいであろうか。刈り取られた稲は、その場で束ねられて、木組みの物干し竿のようなものに掛けられる。稲架かけである。何を隠そうこれが見たかった(写真に撮りたかった)のだ。地元の人からすると、なぜこんなものをと思うかもしれないが、都会に住む私にとっては、貴重な日本の風景であり、格好の被写体でもあるのだ。よく見ると、刈り取られた稲にも、新鮮なものと何日か干されたのであろう、茶色に変色したものがあって趣深い。

地図を見ると松代城なるものがある。上杉謙信が利用したとされる城らしいということで、寄ってみることに。似た名前として信濃松代城というのが長野県にあり、たぶんそちらの方が有名なのだが、こちらの松代城はいかがなものか。松代城は山の頂上にあり、車で行けるのだが、道は大変狭い。小型車でもぎりぎり1台通れるかどうかという道を延々と上ると、まさしく山の頂上にぽつんと天守閣だけのような形の城があった。展望施設があるようなのだが、この日は閉まっていた。しかし、城の脇からは松代町が一望できる素晴らしい眺めである。山間を走る道路と線路。そしてどの山の斜面にも棚田が広がっている。
もう少し先まで車を走らせて、お隣の松之山町にある松之山温泉に立ち寄った。松之山温泉は日本三大薬湯のひとつに数えられる名湯である。狭い山の間に温泉宿が何軒か軒を連ねている。日帰りで入れる施設もあり、番台にお金を支払って湯船に進むと、こんこんとお湯がわき出ていた。湯は熱い。みんな赤くなり、仏頂面をして湯につかる。脇を細々と流れている川の水がうらやましい。
湯から上がると陽が西に傾きつつあるので十日町の宿に戻った。夕食は地元のそばに舌鼓を打つ。